社会課題解決と資本市場

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課題解決としての起業の終焉というブログをX/Twitterで見かけ、気になり読んでみた。書かれている現実は厳しいが、僕個人も非常に近い課題感を持っている。

リターンの最大化を求められる投資家は、資本効率が良く、広大な市場を急速に開拓しうるデジタルサービスを、数多ある投資候補の中から好んで投資することが多くなる。また、日本でもVC市場の成熟化に伴い、VCのファンドサイズは大きくなる傾向があるが、それは、その大きなファンドサイズに見合うリターンを出しうる投資先のみが選別される状態を生み出す。平たく言えば、ユニコーンになりうる事業でなければ、大規模な資金をVCから調達するのは難しいことを意味する。

事業価値が1,000億円というのをあえて単純化して考えてみる。たとえばPER20・税率35%とすると、経常利益77億円が必要になる。経常利益率を15%とすると売上は512億円となる。仮にPER30と見ても経常利益50億円以上の利益規模が求められる。もちろんグロース投資のバリュエーションでは、定性面も含めて多面的な成長期待や競合優位性も問われ、市況による変化も大きいため、一概にこの数値感が正しいわけではない。ただ、どこかで事業が成熟したときに、上記以上の数値が見込めなければ、事業価値が安定して1,000億円を越えることは難しいだろう。

VCファンドの投資期間の間にこれだけの規模に達すると期待される(または、将来的にそれ以上の規模になるという期待が醸成できる)事業候補は限られている。その候補の中に入れない事業は、VCから多額の資金を獲得し、事業を立ち上げることは困難になる。これは、僕自身がVCからの資金調達に奔走し、40社超える投資家と議論をしてきた実感だ。僕自身も過去に金融投資に携わっていたため、投資家のロジックは理にかなっていると考えており、非があると言いたいわけではない(むしろ、多くの投資家はこの構造を丁寧に教えてくれた上で、共感があっても投資は難しい理由を解説してくれたので、感謝している)。

「資本主義の中心で、資本主義を変える」にも書かれているが、事業には固有の時間軸がある。一般的にはユニコーンに化けるとは信じられていないが、社会的に解決すべき課題があった際に、そこには誰が資金を提供するのか。この問いは、まだ明確な答えがないまま、解かれるのを待っている。

教育市場の課題と垂直統合モデル

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ここで視点を変えて、僕個人及び僕たちの紹介を簡単にさせてほしい。

僕は、新卒時に日本政策投資銀行という政府系の金融機関に入って以来、金融投資家→経営コンサルタント→事業家と立場を変えながら、「資本主義を通じて、社会課題を解決する」ことをテーマに仕事をしている。4年前からは株式会社コノセルという会社を創業し経営している。コノセルでは、教育のデジタル化を進め、マスの教育を変えることを目指し、個別指導コノ塾という学習塾を運営している。

教育は、資本主義・民主主義という「判断力のある個」の存在に依拠した社会システムを支える根幹だ。近年の課題は、教育費の高騰と先生の不足だと考えており、いずれもデジタルテクノロジーを活用し、先生の生産性を高めることで解消できる可能性が高い。

そのために、自社で学習塾を運営し、その教室で利用される教材や管理ツールなどを内製化し、デジタルレイヤーとオペレーションレイヤーを垂直統合した事業モデルで教育業界を変革しようとしている。このような重たい事業モデルに敢えて踏み切って事業展開をしている理由は、大半の生徒には先生の存在が不可欠であり、また、先生がデジタルテクノロジーを使いこなすには、オペレーションまで踏み込む必要があると確信しているからだ。

そう考えるようになったのは前職での経験が大きい。前職では、幸いにもスタディサプリという日本で最も普及したデジタル教材に関わることができ、B2C・B2B(B = 学校・塾)の両ビジネスモデルで、デジタル教材の利用促進に邁進してきた。

デジタル教材は素晴らしいポテンシャルを持っている。ただ、そのポテンシャルを一人で活かしきれる生徒はそこまで多くはない。自主的に一人で学習計画を立てて、進められる生徒ばかりではない。また、学校や塾で使っていただくのも一筋縄ではいかない。紙の教材を前提として長年組み上げられてきたオペレーションが存在し、かつ、そのオペレーションが生徒にとっては価値の根幹をなすからだ(教材の値段と塾の値段の大きな差異が一つの証左だと考えている)。

デジタル教材は、動画で質の高い解説を行ってくれ、カリキュラムも一人ひとりに合わせて自動で生成してくれる。ただ、その特徴が、既存のオペレーションと相容れないことも多い。(Ex. 授業時間内に動画が見終わらない、せっかくの授業時間の大半が動画視聴で潰れる、先生の意図した順番で単元が進められず期限内に試験範囲が終わらない等)。そうなると、せっかくのデジタル教材の良さも活かしきれず、既存オペレーションに追加してデジタル教材を使う負荷感から避けられてしまう事態が生じる。最悪の場合、せっかくのデジタルテクノロジーが、逆に生産性を下げるような事態を招きかねない。

しかし、このままだと教育のデジタル化はゆっくりとしか進まず、先生の生産性も高まらない。結果的に、教育費の高騰も先生の人手不足も解消の緒が見えないままとなる。こんな状態を解消したく、上述のデジタルレイヤーとオペレーションレイヤーを垂直統合した事業モデルで教育業界を変革することを決意し、その第一弾として、学習塾という領域からスタートすることにした。

自社で教材を作り、アプリに載せ、その運営ルールを作り、教室長と物件を探し、教室を立ち上げていくのだから、時間も手間もお金もかかる。ただ、これは確実に価値があるという手応えは強い。とくに学校や塾の先生と言った教育業界の経験者からの強い支持を受けており、業界インサイダーから見れば、このやり方で教育業界を変えるべきとのコンセンサスが暗黙にあったことを感じている(おそらく、オペレーションレイヤーとデジタルレイヤーの融合が求められる産業は病院のように他にもあり、同様の課題が残っていると思われる)。

ソーシャル投資のバトンをつなぐ

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